【解説】自立式山留め工法とは?|宅地造成で自立式の採用を判断する基準

宅地造成や擁壁工事の根切りを計画するとき、次のようなことで迷っていませんか?

  • 切梁を入れずに掘削できる条件を知りたい
  • 自立山留めの根入れ長や変位の目安を知りたい
  • 隣地が近い宅地で自立山留めを使ってよいか判断できない

自立山留め工法は、掘削範囲に切梁がないため作業効率の高い工法です。

ただし、自立山留め工法は根入れ部の地盤抵抗だけで土圧を支えます。そのため、条件を誤ると壁の変位や背面地盤の沈下を引き起こす恐れがあります。

また、自立山留めの設計基準は、土木と建築で考え方が異なります。基準の違いを把握しないまま採用すると、隣地とのトラブルを招くおそれもあるため注意が必要です。

そこでこの記事では、自立山留め工法の仕組み、使える掘削深さ、根入れ長と変位の考え方、採用前の注意点を解説します。

この記事を読むと、自立山留め工法を採用できる現場と、支保工を併用すべき現場の判断基準が分かります。

結論から申しますと、自立山留め工法は浅い掘削に限って採用できます。目安は、掘削深さ3m程度以下(良質地盤では4m程度以下)、良好な地盤、変位を許容できる周辺環境の3条件です。

目次
  1. 【結論】自立山留め工法は浅く良質な地盤の掘削に限って使う工法
  2. 自立山留め工法が浅い掘削に限られる3つの理由
    1. 理由1:山留め壁を根入れ部だけで支える片持ち構造だから
    2. 理由2:根入れ長が掘削深さを上回るから
    3. 理由3:頭部変位が大きく、背面地盤の沈下を伴うから
  3. 自立山留めの設計で照査する項目
  4. 山留め壁の種類と自立山留めでの使い分け
  5. 自立山留め工法を採用する前に確認すべき注意点
    1. 深さ1.5m以上の根切りでは原則として山留めが必要
    2. 土木と建築で準拠する基準が異なる
    3. 地下水位が高い地盤や軟弱地盤では慎重に判断する
    4. 頭部変位を計測し、管理値を超えたときの対策を決めておく
  6. まとめ:自立山留め工法は条件を確認してから採用する
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土質 太郎

建設コンサルタントに長年従事しており、宅地造成の地盤分野に特化した情報を発信しています。

■保有資格
・地質調査技士(現場技術・管理部門)
・1級土木施工管理技士
・地盤品質判定士

【結論】自立山留め工法は浅く良質な地盤の掘削に限って使う工法

自立山留め工法は、切梁・腹起し・地盤アンカーなどの支保工を使わずに山留め壁を自立させる工法です。土木分野では「自立式土留め」と呼びます。

自立式山留め工法では、山留め壁の根入れ部が受ける地盤の抵抗だけで、背面の土圧と水圧を支えます。

そのため、自立山留め工法を使えるのは、浅い掘削と比較的良質な地盤に限られます。

国土交通省中部地方整備局の設計要領でも、自立式は土圧と水圧が小さく、壁の変位が問題にならない場合に使うとしています。

山留めの形式ごとの違いは、以下の表のとおりです。

形式山留め壁を支える仕組み主な長所主な短所
自立式根入れ部の地盤抵抗のみ掘削範囲に支保工がなく、掘削と躯体工事の効率が高い壁の変形が大きく、根入れが長くなる
切梁式切梁・腹起しと根入れ部の地盤抵抗支保工の段数を増やせば深い掘削にも対応できる支保工が掘削や躯体工事の障害になる
アンカー式背面地盤に定着させたアンカーと根入れ部の地盤抵抗掘削範囲に切梁がない定着できる地盤と背面の用地が必要で、工費が高くなる傾向がある
控え杭タイロッド式背面の控え杭とタイロッドアンカー式より経済的な場合がある背面に控え杭を打つスペースが必要

自立山留め工法を採用できるかどうかは、以下の4項目で判断します。

  • 掘削深さ:道路土工 仮設構造物工指針(平成11年3月)は、自立式の設計法を掘削深さ3m以下に適用します。良質地盤では、おおむね4m以浅まで適用できます。
  • 地盤:自立山留めは、根入れ部の地盤が良質であることを前提とします。軟弱な地盤では、自立山留めの根入れ長と変位が大きくなりすぎます。
  • 地下水:掘削底面より地下水位が高い現場では、ボイリングや盤ぶくれの検討が必要です。
  • 周辺環境:隣接する家屋・道路・埋設管が、壁の変位の影響を受けないことを確認します。

4項目のいずれかを満たさない現場では、切梁式・アンカー式・控え杭タイロッド式など、支保工を併用する工法を検討してください。(なお、宅地造成の実務上はアンカー式やタイロッド式を採用することは殆どありません)

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自立山留め工法が浅い掘削に限られる3つの理由

理由1:山留め壁を根入れ部だけで支える片持ち構造だから

自立山留めの山留め壁は、根入れ部で支持された片持ち梁として考えます。

片持ち梁は途中に支点がないため、掘削が深くなるほど付け根部分に生じる曲げモーメントが大きくなります。

切梁式の山留めでは、切梁が壁の途中を支えるため、曲げモーメントの増加を抑えられます。

一方、自立山留めは掘削が深くなった分を、部材の剛性と根入れだけで受け止めます。

片持ち構造であることが、自立山留め工法を浅い掘削に限る1つ目の理由です。

理由2:根入れ長が掘削深さを上回るから

自立山留めの根入れ長は、掘削深さを上回る長さになる傾向があります(地盤条件にもよりますが、掘削深さの2~3倍の根入れ長になるのが一般的です)。

根入れ長が長くなるほど、材料費と打設の手間は増えます。

さらに、長い鋼矢板を扱う場合、狭い宅地では施工機械をどこに置くかが課題になることもあります。

よって、経済性や施工性を踏まえても、大深度掘削に自立式の山留めは適しません。

理由3:頭部変位が大きく、背面地盤の沈下を伴うから

自立山留めは、支保工がないため山留め壁の変形が大きくなる工法です。

頭部変位が大きくなると、隣地に影響が生じる恐れがあります。山留め壁が掘削側へ変位すると、背面の地盤に沈下が生じます。

なお、日本建築学会の「近接山留めの手引き」では、近接する構造物の種類に応じて、山留め壁の変位量の目安を示しています。

隣地に家屋や塀がある宅地では、厳しい管理値を設定することが重要です。

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自立山留めの設計で照査する項目

自立山留めの設計の主な照査項目は以下の表のとおりです。

照査項目確認する内容
土圧・水圧背面の主働土圧と水圧の合力を求める。上載荷重は原則として10kN/m²を見込む
根入れ長最小根入れ長、掘削底面の安定、2.5/βのうち最大値を採用する
断面(応力度)最大曲げモーメントによる曲げ応力度が許容応力度以下かを確認する
頭部変位掘削底面での変位、たわみ角による変位、片持ち部のたわみの合計を確認する
掘削底面の安定地盤条件に応じて、ボイリング・パイピング・ヒービング・盤ぶくれを確認する

上載荷重にも注意が必要です。重機や建物が山留めのすぐ近くにある場合、10kN/m²では危険側になるため、適切な荷重を別に見込む必要があります。

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山留め壁の種類と自立山留めでの使い分け

自立山留めに使う山留め壁は、止水性と剛性で選びます。代表的な山留め壁の特徴は以下のとおりです。

山留め壁止水性特徴自立山留めでの留意点
親杭横矢板なし工費が安く、小規模工事で採用される地下水の多い地盤や軟弱地盤には向かない
鋼矢板(シートパイル)あり(継手による)引き抜いて繰り返し使える継手の影響で断面性能を低減して計算する。引き抜くときの周辺沈下に注意する
ソイルセメント柱列壁ありH形鋼の芯材を入れて剛性を高める大型重機が必要で、工費と工期が増える

宅地造成の小規模な根切りでは、地下水位が低ければ親杭横矢板、高ければ鋼矢板を選ぶのが一般的ですが、隣地への変位を厳しく抑える現場では、より剛性の高い(変形しにくい)ソイルセメント柱列壁(SMW)を採用することもあります。

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自立山留め工法を採用する前に確認すべき注意点

深さ1.5m以上の根切りでは原則として山留めが必要

建築基準法施行令第136条の3第4項は、深さ1.5m以上の根切り工事では原則として山留めを設けるよう求めています。

また、山留めの主要な部分について、土圧に対する構造計算が必要です。

さらに同条第6項は、施工中の点検と、矢板を引き抜くときに周辺地盤の沈下を防ぐ措置も求めています。

建築工事で山留めを設置する場合は、構造計算と施工中の点検が必要になります。

土木と建築で準拠する基準が異なる

土木工事の自立式土留めは、主に日本道路協会の「道路土工 仮設構造物工指針」で設計します。

対して建築工事の山留めは、日本建築学会の「山留め設計指針」を参照するのが一般的です。

ただし宅地造成の工事は、道路と宅地の協会付近に山留めを設置することが多く。準拠する基準がはっきりしない工事もあります。

その場合は発注者や道路管理者と協議し、適用する基準を事前に決めておきましょう。

地下水位が高い地盤や軟弱地盤では慎重に判断する

自立山留めは、根入れ部の地盤抵抗に全面的に頼る工法です。

よって根入れ部の地盤に問題が生じると一気に崩壊する恐れがあります。

地下水位が高い砂質地盤では、ボイリングやパイピングの検討が必要です。また、掘削底面の下に難透水層がある場合は、盤ぶくれの検討も行いましょう。

条件によっては、地盤改良などの補助工法や、別の工法が必要になります。

頭部変位を計測し、管理値を超えたときの対策を決めておく

自立山留めの安全管理は、頭部変位の計測が基本です。掘削前に隣地の家屋調査を行い、掘削中は頭部変位を定期的に記録しておきましょう。

宅地造成の小規模な山留めでも、管理値と超過時の対策は事前に決めておくことが重要です。

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まとめ:自立山留め工法は条件を確認してから採用する


以上。本記事では、自立山留め工法の仕組み、使える掘削深さ、根入れ長と変位の考え方、採用前の注意点を解説しました。

本記事のまとめは以下のとおりです。

  • 自立山留め工法は、支保工を使わず根入れ部の地盤抵抗だけで山留め壁を支える工法
  • 自立式山留めは通常掘削深さ3m以下、良質地盤ではおおむね4m以浅まで適用可能
  • 自立山留めの根入れ長は掘削深さを上回る(概ね掘削深さの2~3倍)傾向がある。
  • 深さ1.5m以上の根切りでは原則として山留めを設ける。
  • 地下水位が高い地盤や軟弱地盤では、支保工の併用や補助工法を検討する。

自立山留め工法を検討するときは、まず掘削深さ・地盤調査の結果・地下水位・隣地の状況を整理し、整理した結果をもとに計算書の根入れ長と頭部変位、施工中の管理値を確認しましょう。

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