隣地境界に沿って擁壁を設けると、水抜き穴が隣地際に面します。
水抜き穴は、擁壁背面に浸透した雨水や地下水を排出し、背面水圧の増加を防ぐために必要です。
一方で、水抜き穴から排出された水が隣地へ流れ込む計画は、得てして隣地トラブルの原因になります。
また、水抜き穴の周囲に生じる水跡やコケも、隣地所有者にとっては自宅から見える景観の一部です。
擁壁の構造が基準を満たしていても、排水処理や見え方への配慮が欠けていれば、完成後に隣地トラブルが生じる可能性があります。
隣地側に面する擁壁を計画するときは、水抜き穴、側溝、擁壁位置、最終排水先を一体で検討し、隣地所有者が納得できる計画にすることが重要です。
隣地側に面する擁壁は排水先まで計画する

水抜き穴は省略できない
水抜き穴は、擁壁背面へ浸透した雨水や地下水を前面へ排出するために設けます。
背面に水がたまると擁壁へ水圧が作用するため、隣地側から見えることや、隣地所有者から設置を嫌がられたことを理由に省略することはできません。
盛土等規制法の技術的基準では、擁壁の壁面3平方メートル以内ごとに少なくとも1個、内径75mm以上の水抜き穴を設けることが定められています。
水抜き穴を塞いだり、必要な数量を減らしたりすると、擁壁背面の水を適切に排出できなくなります。
隣地への配慮は、水抜き穴をなくすことではなく、排出された水を隣地へ流さない方法で行います。
問題になるのは水抜き穴から出た後の水
水抜き穴から水が出ること自体は、擁壁の排水機能が働いている状態です。
問題になるのは、排出された水が隣地の庭、通路、建物周囲などへ流れ込むことです。
雨のたびに隣地に水が流れ込むといった計画では、水抜き穴の必要性だけを説明しても理解は得られません。
擁壁の計画では、排出された水を受ける施設と最終排水先まで決める必要があります。
水抜き穴からの排水は自敷地内の側溝で受ける

擁壁前面に側溝を設けて雨水排水施設へ導く
隣地側に面する擁壁では、水抜き穴の前面に側溝を設け、排出された水を自分の敷地内で受ける必要があります。
側溝には必要な排水勾配を確保し、集水ますや雨水管などの雨水排水施設へ接続し、排水経路に逆勾配がないか、集水ますへ自然流下できるか、最終排水先へ接続できるかまで確認する必要があります。
最終排水先から側溝、水抜き穴、擁壁の順に水の流れを確認し、排水経路から逆算して擁壁位置を決めることが重要です。
側溝を設置できないときは擁壁をセットバックする
擁壁を境界線ぎりぎりに配置すると、擁壁前面に側溝を設ける空間が残りません。
その状態で側溝を追加すれば、側溝が隣地へ越境します。
側溝を自分の敷地内に納められないときは、必要な空間を確保できる位置まで擁壁を敷地内へセットバックします。
セットバック量は、採用する側溝の外形寸法、施工に必要な余裕、境界標との離隔、清掃や補修に必要な空間を踏まえて決定してください。
土地を広く使うために擁壁を境界へ寄せた結果、側溝を設置できず、排水が隣地へ流れ込む計画になれば本末転倒です。
擁壁の配置は、造成後に利用できる平場の広さだけでなく、排水施設を自敷地内に納められるかを確認して決めましょう。
水跡やコケが目立たない配置を検討する

水が隣地へ入らなくても景観上の不満は残る
側溝によって排水を自敷地内で処理しても、水抜き穴の周囲には水跡やコケが生じます。
水抜き穴が高い位置にあると、排水が擁壁表面を流れる距離が長くなり、濡れた跡や汚れが目立ちます。
隣地側から見れば、構造上は正常な排水でも、「擁壁から水が漏れている」「汚れた壁が見える」と受け取られます。
隣地側に面する擁壁では、排水能力だけでなく、完成後に隣地からどのように見えるかも設計条件に含める必要があります。
排水性能を確保しながら水抜き穴を下部へ重点配置する
水跡やコケを目立たなくする方法として、水抜き穴を側溝に近い擁壁下部へ重点的に配置する方法があります。
水抜き穴から側溝までの距離を短くすれば、排水が擁壁表面を流れる範囲を抑えられます。
隣地所有者には排水経路を図面で説明する
最終排水先まで示す
隣地所有者への説明時には、水抜き穴から排出された水がどこを通り、どこへ排水されるのかを図面で示せるようにしましょう。
平面図や断面図には、次の内容を明示します。
- 隣地境界線
- 擁壁の位置
- 水抜き穴の位置
- 擁壁前面に設ける側溝
- 側溝の排水方向
- 集水ますや雨水管
- 最終排水先
- 擁壁のセットバック位置
水抜き穴は擁壁の安全上必要であることに加え、排出された水は側溝で受け、自分の敷地内の排水施設へ導くことを説明します。
水の流れを図面で示せば、隣地へ排水が流れ込まないことを具体的に伝えられます。
さらに景観上の配慮なども併せて説明すると良いでしょう。
隣地への説明は擁壁位置を決定する前に行う
隣地所有者への説明は、工事直前ではなく、擁壁位置を調整できる計画段階で行います。
施工後に排水経路や景観について指摘されると、側溝の追加や擁壁位置の変更は困難です。
計画段階で説明すれば、側溝の配置、水抜き穴の見え方、維持管理方法について認識を合わせられます。
「法令を満たしているから問題ない」と押し切るのではなく、安全性、排水、景観、維持管理まで検討したことを図面で示すことが、隣地トラブルを防ぐためのプランニングです。
まとめ

本記事の要点は次のとおりです。
- 隣地側に面する擁壁でも、水抜き穴を省略してはいけない
- 水抜き穴からの排水は、隣地へ流さず自敷地内の側溝で受ける
- 側溝は集水ますや雨水管へ接続し、最終排水先まで計画する
- 側溝を自敷地内に納められない場合は、擁壁をセットバックする
- 水跡やコケを抑えるため、排水性能を確保したうえで水抜き穴の配置を工夫する
- 隣地所有者には、擁壁、水抜き穴、側溝、最終排水先を図面で説明する
隣地との境界付近に擁壁を計画するときは、擁壁の位置を先に決めてはいけません。
水抜き穴から排出された水をどこで受け、どこへ流すのかを整理し、側溝を自敷地内に納められる位置から擁壁の配置を決める必要があります。
排水、景観、維持管理、隣地所有者への説明まで含めて計画することが重要です。
関連記事





コメント