擁壁の設計では、土圧を受けても擁壁が動かず、安定した状態を保てるか確認しなければなりません。
この確認が擁壁の安定計算です。
一般に擁壁の安定計算というと、擁壁の滑動、転倒、支持力を確認する外的安定の照査を指します。
この記事では、実務設計者向けに、擁壁安定計算の考え方と基本的な確認手順を解説します。
擁壁の安定計算とは

擁壁の安定計算は、土圧や水圧などの外力を受けた擁壁が、所定の位置で安定しているか確認する計算です。
擁壁本体が十分な強度を持っていても、擁壁全体が滑ったり、転倒したり、基礎地盤に沈み込んだりすれば安全とはいえません。
外的安定・内的安定・全体安定の違い
擁壁の安定照査は、外的安定、内的安定、全体安定の3つに分けて整理できます。
| 照査項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 外的安定 | 擁壁全体の滑動、転倒、支持力 |
| 内的安定 | 壁体や底版などの部材強度 |
| 全体安定 | 擁壁と周辺地盤を含むすべり破壊 |
外的安定は、擁壁を一つの構造物として扱い、土圧などによって動かないか確認する照査です。
内的安定は、壁体や底版に生じる曲げモーメントやせん断力を算定し、部材厚や鉄筋量が十分か確認する照査です。
全体安定は、擁壁だけでなく背面地盤や基礎地盤も含め、円弧すべりなどの破壊が生じないか確認します。
一般に安定計算は外的安定の照査を指す
3つの照査はいずれも必要ですが、設計実務で「擁壁の安定計算」と呼ぶときは、滑動、転倒、支持力を確認する外的安定の照査を指すのが一般的です。
外的安定の目的は、その名のとおり、擁壁が土圧を受けても動かず、安定した状態を保てるか確認することです。
擁壁安定計算を行う前に設計条件を整理する

擁壁安定計算では、先に設計条件を整理することが重要です。
擁壁高や土質定数、荷重条件が変われば、土圧や抵抗力も変わります。
まずは計算の根拠となる条件を明確にします。
擁壁形状・土質定数・荷重条件を設定する
まず、擁壁高さ、壁体厚、底版幅、つま先版とかかと版の長さを設定します。
次に、背面土と基礎地盤の単位体積重量、内部摩擦角、底版下面の摩擦係数などを設定します。
上載荷重、背面地盤の勾配も安定計算に影響します。
土質定数は、地盤調査結果や採用する設計基準に基づいて設定します。
土圧・自重などの作用力を算定する
設計条件を設定したら、擁壁に作用する力を算定します。
主な作用力は、背面土による土圧、上載荷重による土圧です。
これに対して、擁壁自重やかかと版上の土の重量などが、滑動や転倒に抵抗する力として働きます。
なお、根入れ部に地下水位が想定されるときは、浮力の影響も考慮します。
擁壁の外的安定で確認する3つの項目

外的安定では、滑動、転倒、基礎地盤の支持力を確認します。
底版幅や擁壁重量を変更すると複数の計算結果が変わるため、全体のバランスを見ながら擁壁形状を決めます。
滑動に対する安定
滑動の照査では、擁壁を水平方向に動かそうとする力と、底版下面に生じる摩擦抵抗を比較します。
滑動力は主に背面土圧の水平成分です。
抵抗力は、擁壁自重などによる鉛直力と底版下面の摩擦係数から算定します。
前面土による受働土圧は、掘削や将来の地盤改変によって失われるため、原則滑動抵抗には含めません。
転倒に対する安定
転倒の照査では、擁壁を前方へ倒そうとする転倒モーメントと、擁壁自重などによる抵抗モーメントを比較します。
一般には、底版つま先を基準として各荷重のモーメントを算定します。
あわせて、底版下面に作用する合力の位置を確認し、荷重が底版の一部へ偏りすぎていないかを照査します。
基礎地盤の支持力に対する安定
支持力の照査では、底版下面に生じる地盤反力度を算定し、基礎地盤の許容支持力度と比較します。
転倒モーメントが大きいと、地盤反力度は底版つま先側に集中します。
平均地盤反力度だけでなく、最大地盤反力度と最小地盤反力度を確認し、底版下面に過大な圧縮や引張領域が生じていないか判断します。
U型擁壁などは浮き上がりも照査する
U型擁壁など、地下水による揚圧力を受ける構造では、滑動、転倒、支持力に加えて浮き上がりも照査します。
底版下面に作用する揚圧力と、擁壁自重や上載荷重などの抵抗力を比較し、擁壁が浮き上がらないことを確認します。
擁壁内部に水や土がない状態も考慮し、施工時と供用時の不利な水位条件を設定します。
安定条件を満足しないときの対策

安定条件を満足しないときは、土質定数や荷重条件を都合よく変更するのではなく、擁壁形状や基礎地盤の対策を見直します。
どの照査が不足しているかによって、有効な対策は異なります。
滑動・転倒を満足しないときは擁壁形状を見直す
滑動を満足しないときは、底版幅や擁壁重量を増やし、底版下面の摩擦抵抗を確保します。
転倒を満足しないときは、底版幅やかかと版の長さを見直し、抵抗モーメントを増やします。
ただし、擁壁重量を増やすと基礎地盤に作用する荷重も大きくなるため、支持力への影響も同時に確認します。
支持力を満足しないときは底版幅や地盤改良を検討する
支持力を満足しないときは、原則は底版幅を広げて地盤反力度を分散させます。
偏心によって最大地盤反力度が大きいときは、つま先版とかかと版の長さを調整し、合力の作用位置を見直します。
なお、どうしても支持力が不足するときは、浅層混合処理や深層混合処理などの地盤改良も検討します。
当サイトでL型擁壁安定計算のフリーソフトを公開しています

当サイトでは、L型擁壁の滑動、転倒、支持力を確認できる安定計算用フリーソフトを公開しています。
擁壁形状や土質条件を変更しながら計算結果を比較できるため、概略検討や計算内容の確認に利用できます。
採用する設計基準、地盤条件を、設計者自身で確認したうえで使用してください。
まとめ

擁壁の安定計算は、土圧を受けた擁壁が滑動、転倒、支持力破壊を起こさず、所定の位置で安定しているか確認する外的安定の照査です。
土質定数や荷重などの設定根拠を明確にし、必要に応じて擁壁形状の見直しや地盤改良を検討することが重要です。
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