地盤調査の結果で「柱状改良が必要です」と言われると、急に百万円単位の費用が出てきて不安になる人が多いと感じます。報告書には専門用語が並び、どこまで信用してよいのか戸惑う場面もあります。
一方で、必要な地盤改良を避けてしまうと、不同沈下や擁壁の変形など、後から取り返しのつかない問題につながる可能性があります。費用を抑えながら安全性も確保したいというのが本音ではないでしょうか。
筆者は建設コンサルタントとして長年地質調査や解析に携わり、宅地造成の地盤改良や擁壁設計を多数経験してきました。盛土造成地から造成済み分譲地まで、さまざまな地盤を見てきた立場から、実務目線で柱状改良工法を解説します。
この記事では、柱状改良工法の仕組みと適用条件を整理し、表層改良や小口径鋼管杭との違いを比較します。あわせて、宅地造成での注意点や見積書のチェックポイントもまとめます。
読み終えていただく頃には、柱状改良が本当に妥当な提案かどうか、施主としてどこを質問すべきかが明確になるはずです。
結論として、柱状改良は条件が合えばコストと安全性のバランスがよい工法ですが、支持層の評価と施工管理を外すとトラブルリスクが高まる工法だと考えてください。
柱状改良工法の結論から:どんな地盤で選ぶべきか
最初に結論を整理します。
柱状改良工法は、軟弱層が地表から数メートルの深さまで続き、その下に比較的良好な地盤が存在するケースで有力な選択肢になります。典型的には、軟弱層の厚さが二メートルから八メートル程度の戸建て住宅で、表層改良では届かず、鋼管杭では過剰という状況が多いです。
一方で、支持層が極端に深い地盤や、腐植土やロームが厚い地盤では、柱状改良よりも鋼管杭や別工法を検討した方が安全性が高い場合があります。
また、盛土造成地では盛土材の品質や締固め状況によって、柱状改良の有効性が大きく変わる点にも注意が必要です。
つまり柱状改良は、「中程度の深さに支持層がある軟弱地盤」で、コストと性能のバランスを取りたいときに最有力となる工法と捉えると分かりやすいです。
地盤改良の全体像と柱状改良の位置づけ
よく使われる三つの地盤改良工法
戸建てや宅地造成でよく登場する地盤改良工法は、概ね次の三種類に整理できます。
- 表層改良工法
- 柱状改良工法(深層混合処理の一種)
- 小口径鋼管杭工法
表層改良は、地表近くの軟弱土と固化材を混ぜて地表付近を面で固める工法です。浅い範囲の軟弱地盤に向いており、コストを抑えやすい特徴があります。
柱状改良は、地盤中に円柱状の改良体を多数つくり、杭のように建物や擁壁を支える工法です。軟弱層が数メートルの深さまで続く場合に適しており、戸建てでは最も採用例の多い工法といえます。
小口径鋼管杭工法は、鋼管を回転圧入して深い支持層で建物を支える方法です。固化不良のリスクがほぼなく、深い軟弱層にも対応できますが、工事費は柱状改良より高くなる傾向があります。
柱状改良が担う役割
この三つの工法の中で柱状改良は、「表層改良では届かないが、鋼管杭だとオーバースペック」というゾーンを埋めます。
対象となるのは、木造二階建て程度の小規模から中規模の建物が中心で、宅地造成の造成盛土上でも多用されます。コストと施工性に優れますが、後述するように施工管理の品質差が出やすい工法でもあります。
柱状改良工法の仕組みと基本仕様
土と固化材を混ぜて柱状の補強体をつくる

柱状改良工法は、現地の土とセメント系固化材を撹拌し、地盤の中に円柱状の補強体をつくる工法です。固化材は水と混ぜてスラリー状にして地盤内に注入し、撹拌翼で土と混ぜることで化学的に硬化した改良体となります。
完成した改良体は、一般に直径60~100センチ前後の柱状となり、建物の荷重を周面摩擦力と先端支持力で支えます。複数本を格子状に配置し、建物基礎の下に「束」のように配置するイメージです。
適用される深さの目安

柱状改良が採用されることが多いのは、軟弱層が二メートルから八メートル程度の深さまで存在するケースです。
それより浅ければ表層改良で対応できる場合が増え、逆に十メートルを超えるような深い軟弱層では鋼管杭の方が現実的になることが多いと考えられます。
ただし、深さだけでなく、土質や地下水位、周辺の構造物の状況も併せて判断する必要があります。特に腐植土や有機質土、火山灰質土が厚い場合は、固化不良のリスクが高く、慎重な検討が求められます。
強度設計と改良長
柱状改良の設計では、地盤調査結果から支持層のN値や土質を評価し、必要な改良体強度(設計一軸圧縮強さ)を決めます。
そのうえで、柱の直径、長さ、本数を組み合わせて、建物荷重に対する安全率を確保するのが基本的な考え方です。
改良長は、支持層に十分食い込む長さを確保することが重要です。支持層の評価が甘いと、改良体の先端が軟弱層に留まり、不同沈下のリスクが高くなるため、報告書の地層区分をよく確認してください。
柱状改良が向いているケースと避けた方がよいケース
向いているケース
柱状改良が有力な選択肢となるのは、次のような条件が重なる場合です。
- 軟弱層の厚さが二メートルから八メートル程度
- その下にN値が十分な砂質土や礫質土が存在する
- 建物規模が木造二階建て程度で荷重が比較的軽い
- 敷地が極端に狭くなく、施工重機の進入が可能
- 地下水位が施工に支障しないレベル
このような条件では、鋼管杭よりも工事費を抑えやすく、表層改良よりも沈下抑制効果を期待できるため、コストと性能のバランスがよい選択肢になります。
避けた方がよい、慎重に検討したいケース
一方で、次のような条件では注意が必要です。
- 軟弱層が十メートル以上と厚く、支持層が深い
- 腐植土、有機質土、ロームが厚く分布している
- 高い地下水位で、固化材の流出や固化不良が懸念される
- 将来の建て替えで改良体の撤去が前提となる計画
これらの場合、柱状改良を無理に採用するよりも、小口径鋼管杭など他工法を検討した方が、長期的なリスクを抑えられるケースが多いと考えられます。
柱状改良と他工法の比較表
代表的な三工法を、戸建て目線で比較します。
| 工法 | 適用深さの目安 | 特徴 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 表層改良工法 | 二メートル程度まで | 施工が容易でコストを抑えやすい | 勾配や地下水の影響を受けやすい |
| 柱状改良工法 | 二〜八メートル前後 | コストと安定性のバランスがよい | 固化不良や支持層評価に注意 |
| 小口径鋼管杭工法 | 二十メートル程度まで | 深い軟弱層にも対応でき信頼性が高い | 費用増と騒音振動に配慮が必要 |
表層改良は、盛土表層の締固めが十分であれば有効ですが、雨水や湧水の影響で性能低下を招くことがあります。
小口径鋼管杭は、鋼材そのものが荷重を受けるため信頼性が高く、固化不良のリスクがない点が大きなメリットです。
一方で、鋼材の腐食や騒音・振動、近隣への配慮が課題となる場合があります。
柱状改良はその中間に位置し、「標準的な戸建てで最初に検討されることが多い工法」と言えます。
宅地造成地で柱状改良を使うときの注意ポイント
筆者が宅地造成の業務で特に意識しているのが、盛土と柱状改良の相性です。
造成盛土は、計画通りの締固めが行われていれば良好な地盤になりますが、施工管理が不十分だと、局所的な沈下やすべりのリスクが残ります。
このような地盤に柱状改良を行う場合、次の点を必ず確認してください。
- 盛土厚さと締固め管理試験の有無
- 盛土材の性状(粘性土主体か、砂質土主体かなど)
- 盛土内の地下水位や湧水の状況
- 擁壁や隣地構造物との位置関係
特に擁壁近くで柱状改良を行うと、改良体が擁壁のすべり面を貫通し、将来のすべり破壊モードを複雑にする場合があります。擁壁背面の地盤改良は、擁壁の設計条件も含めた検討が必須です。
また、近年は盛土規制法により、大規模盛土造成地の安全性が厳しく求められています。
地盤改良だけでなく、排水計画や斜面安定の観点からも、造成全体の安全性を総合的に評価することが重要です。
柱状改良の設計から施工までの流れ
柱状改良工事のおおまかな流れを整理します。
- 地盤調査(標準貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験など)
- 地盤解析と支持層の判定
- 建物荷重を踏まえた改良計画の立案
- 柱径、改良長、本数、強度の設計
- 施工計画と重機選定
- 現場施工(撹拌、築造)
- 強度確認試験や配合確認
施主としては、次のようなポイントを質問すると、提案の妥当性を把握しやすくなります。
- 支持層をどの深度と判断しているのか
- 改良体の直径、長さ、本数の根拠
- 想定している一軸圧縮強さと安全率
- 固化材の種類と配合
- 施工後の強度確認方法
ここまで説明してくれる地盤会社やハウスメーカーであれば、施工品質にも一定の信頼を置きやすいと考えられます。
費用の目安と見積書のチェックポイント
柱状改良の費用は、改良深さと本数、建物の大きさで大きく変わります。一般的な木造二階建てで、改良深さが数メートル程度の場合、改良長1mあたり5,000円~8,000円の範囲に収まることが多い印象です。
見積書を見るときは、金額だけでなく、次の項目を確認してください。
- 改良体の直径
- 改良長の平均値と最大値
- 本数と配置図の有無
- 使用する固化材の種類と数量
- 強度確認試験の有無
特に、改良長と本数が極端に少ない見積もりは要注意です。単価だけを下げるのではなく、必要な改良量を削っていないか、提案内容を比較することが重要になります。
また、複数社から相見積もりを取る際は、建物条件と地盤調査データを共通の前提で渡し、条件を揃えたうえで比較することをおすすめします。
将来の建て替えと柱状改良の撤去問題
柱状改良でつくった改良体は、地中にセメント固化体として残るため、将来の建て替え時には基礎形状や杭計画に影響する場合があります。
最近は、将来の撤去費用や再利用性の観点から、あえて鋼管杭を選択する施主も増えています。
土地を長期的な資産として考える場合は、「今だけでなく、将来の選択肢まで含めて工法を選ぶ」視点も大切です。
ただし、必ずしも柱状改良が不利というわけではありません。地盤条件とコスト、将来計画を整理したうえで、総合的に判断することが望ましいといえます。
宅地造成と地盤改良をセットで考える重要性
宅地造成の現場では、擁壁、排水、盛土、地盤改良が相互に影響します。筆者の経験では、地盤改良だけに注目して判断すると、後から排水不良や斜面変形が表面化するケースが見られました。
例えば、切土と盛土が混在する区画では、片側だけ沈下が大きくなることがあります。そのような場所で柱状改良を行う場合、盛土側と切土側で改良条件を変える設計が必要になる場合があります。
「地盤改良=沈下対策」だけで完結させず、 造成計画全体の中で位置づけることが重要です。
造成設計を担当したコンサルタントや設計者とも情報共有し、長期的に安定した宅地となるように検討してください。
まとめ:柱状改良を正しく理解して、納得して選ぶ
最後に、本記事のポイントを整理します。
- 柱状改良工法は、中程度の深さに支持層がある軟弱地盤で有力な工法
- 土とセメント系固化材を混ぜて円柱状の改良体をつくり、
周面摩擦力と先端支持力で建物を支える - 表層改良と鋼管杭の中間に位置し、
コストと安全性のバランスがよい一方で、固化不良には注意が必要 - 軟弱層の厚さ、土質、地下水位、支持層の性状を総合的に判断して適用を決める
- 宅地造成地では、盛土の品質、擁壁との位置関係、排水計画もセットで検討する
- 見積書では、改良長、本数、直径、固化材の種類、強度確認方法を必ずチェックする
- 将来の建て替えや撤去も視野に入れ、土地を資産としてどう使っていくかを踏まえて工法を選ぶ
柱状改良は、正しく設計し、丁寧に施工すれば、戸建て宅地にとって非常に有効な地盤改良工法です。一方で、支持層の評価や施工管理を軽視すると、不同沈下などのトラブルにつながる可能性があります。
地盤改良の内容に少しでも不安を感じたら、報告書と図面を手元に置きながら、この記事のチェックポイントと照らし合わせてみてください。
納得して柱状改良を選択できれば、長く安心して暮らせる宅地づくりに近づけるはずです。

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