【解説】クーロン土圧とランキン土圧の違いと適用構造物

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擁壁や山留めの計算で、クーロン土圧とランキン土圧の違いの説明に困る場面は多いです。

同じ土圧を扱う公式なのに、前提条件や使える範囲が違うため、選び方を誤ると設計の意図がずれます。

筆者は長年、建設コンサルタントとして地質調査や解析に携わり、地盤材料の評価と設計を行ってきました。

そこで本記事では、クーロン土圧とランキン土圧の違いを説明します。

この記事を読むと、擁壁と山留めで別の土圧公式を選ぶ理由がスッと理解できるはずです。

結論として、両者は条件が揃えば同じ土圧力を示しますが、一般の擁壁はクーロン土圧、山留めはランキン土圧が扱いやすいです。

目次

クーロン土圧とランキン土圧の違い

結論から言うと、両者の最大の違いは土圧を求める「アプローチ方法」です。クーロンは「土のくさび全体の力の釣り合い」、ランキンは「土中の応力状態」を扱います。

この違いを押さえると、なぜ一致したり差が出たりするのかが説明できます。土圧理論は公式暗記より、前提条件の理解が重要になります。

アプローチの仕方が異なる

クーロン土圧は、擁壁背面の土がすべり面で区切られたくさびとして動くと考えます。そのくさびに作用する力の釣り合いから、擁壁に作用する土圧を求める考え方です。

このときクーロンは、条件を入れ替えながら「土圧が最大または最小になるすべり面」を探します。つまり、すべり面の角度が条件によって変わり、土圧もそれに合わせて決まります。

一方でランキン土圧は、土の任意点での応力状態をモールの応力円などで整理します。破壊条件(モール・クーロン)に達したときの水平応力として主働・受働土圧を定義します。

このためランキンは、基本形では「壁面が滑らか」「壁面摩擦を無視」といった仮定を置きます。仮定がシンプルなので、数式もシンプルな点が長所です。

整理すると、次のような性格の違いになります。クーロン:壁面摩擦や背面の勾配、壁背面の傾きまでも扱える理論です。ランキン:地盤内の応力状態を基準に、土圧係数を算出する理論です。

同条件では同じ土圧

結論として、一定の条件ではクーロンとランキンは同じ土圧になります。「どちらを使っても同じ」条件を把握すると、混乱が一気に減ります。

代表例は、次の条件です。壁背面が鉛直で、背面地盤が水平で、壁面摩擦を考えない条件です。

この条件では、クーロンの主働土圧係数はランキンの主働土圧係数と一致します。ランキンの主働土圧係数は、一般に次の形で表されます。

Ka = tan^2(45° – φ/2) = (1 – sinφ) / (1 + sinφ)

一致する理由は、両者が結局は「同じ破壊条件」に到達する状態を扱うためです。ただし、壁面摩擦を入れる、背面地盤が傾く、壁背面が傾くと差が出やすくなります。

つまり、違いの本質は「理論の優劣」ではなく、前提条件として入れている要素の違いです。設計で重要なのは、採用する前提条件が構造物の挙動に合っているかどうかです。

ランキン・レザール式は粘着力を考慮できる

粘着力cを含む地盤では、ランキンを拡張したランキン・レザール式が使われます。ランキン理論はもともと砂質土のように粘着力を無視できる材料を基本にしています。

ランキン・レザール式では、粘着力を含むc-φ土に対して水平応力を整理します。代表的な表現は、次のように「粘着力の項」が追加される形です。

主働:σh,a = Ka・σv – 2c・√Ka
受働:σh,p = Kp・σv + 2c・√Kp

ここで注意点が2つあります。1つ目は、主働側で上部の水平応力が負になる領域が出る点です。負の土圧は実務では成立しないため、設計では0として扱うことが一般的です。

粘性土の山留めの設計を手計算やエクセルで実装した際に「土圧が小さすぎる」「土圧力が負を示す」ような計算結果が出た場合は要注意です。

粘着力の扱いと、下限土圧の扱いが原因になっていることが多いと考えられます。

擁壁ではクーロン土圧、山留めではランキン土圧が一般的

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結論として、擁壁はクーロン土圧、山留めはランキン土圧で整理すると実務に合いやすいです。

理由は、構造条件と地盤条件が、両理論の得意分野に対応しているためです。

擁壁では、背面盛土が水平とは限りません。天端勾配、上載荷重、壁背面の勾配、壁面摩擦などの考慮が必要な場面が多いです。

このときクーロンは、壁面摩擦や背面勾配を含めて計算します。さらに、地震時土圧の代表式である物部・岡部法も、考え方はクーロン系の拡張です。

一方で山留めは、掘削の壁面が鉛直に近く、地表面も概ね水平として扱うことが多いです。また、現地盤に埋め込むため粘性土やシルトなどの粘着力を考慮した土圧計算が必要になる場合も多いためランキン・レザール式がうまく適用できるのです。

さらに、仮設構造物としてと山留めは地震力の検討が不要であることが多いため、ランキン・レザール式をそのまま適用することができます。

まとめ

以上。本記事ではクーロン土圧とランキン土圧の違いを解説しました。

本記事の要約を以下に整理します。

  • クーロンは「くさび全体の釣り合い」で土圧を求める理論です。
  • ランキンは「土中の応力状態」から主働・受働土圧を整理します。
  • 壁面摩擦なし、壁が鉛直、背面が水平の条件では両者は一致します。
  • 粘着力cを含めたい場合は、ランキン・レザール式が適用できます。
  • 実務では、擁壁はクーロン、山留めはランキンが一般に扱いやすいです。

クーロンとランキンの差は、暗記よりも前提条件の理解が近道です。設計条件を言語化し、理論の仮定と一致しているかを確認すると理解しやすいです。

どの土圧式を使用するかは土質条件や設計基準で扱いが変わるため、最後は適用基準を確認して判断してください。

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