【解説】沈下と支持力の違い|設計は「破壊」と「変形」の2本立て

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地盤の検討で悩みやすいのが、沈下と支持力の使い分けです。言葉が似ているため、同じ意味だと捉えてしまう場面も多いと思います。

しかし沈下と支持力は、評価している現象がまったく異なります。違いを誤解したまま進めると、基礎形式の判断や改良の要否がぶれます。

筆者は長年、建設コンサルタントとして地質調査や解析に携わりました。地盤材料を扱う立場から、現場で迷いが出る論点を整理します。

本記事では、沈下と支持力の定義、設計での照査手順をまとめます。許容支持力と許容沈下量の関係も、実務目線で噛み砕いて説明します。

読み終えると、調査報告書の数値を「どの判断に使うか」が明確になります。基礎形式の比較や、地盤改良の目的整理もスムーズになります。

結論は、支持力は破壊の安全、沈下は使用性の安全を扱う指標です。設計は両方を満たし、厳しい側で地盤条件を決めるのが基本です。

目次

結論:沈下は「変形」、支持力は「破壊」

沈下は、荷重で地盤がどれだけ変形するかを扱います。支持力は、地盤がせん断破壊などで耐えられなくなる限界を扱います。

設計で必要なのは、片方だけの合格ではありません。支持力と沈下の両方を照査し、厳しい条件が設計を支配します。

まず用語をそろえる:支持力、許容支持力、地耐力

混乱の原因は、似た言葉が複数ある点にあります。意味を固定すると、以降の判断が一気に整理できます。

支持力(極限支持力)

支持力は、地盤が破壊せずに耐えられる能力を指します。その上限が極限支持力で、ここを超えると急激に沈下が進みます。

許容支持力(許容応力度)

設計では極限支持力をそのまま使いません。安全率を掛け、長期・短期の条件に応じた許容値へ落とします。

地耐力

住宅分野では「地耐力」という言い方が多いです。この言葉は、支持力だけでなく沈下特性も含めて語られる場合があります。

言葉の運用が分野で異なるため、報告書の定義確認が重要です。用語の定義が曖昧なまま比較すると、結論がねじれます。

沈下とは何か:総沈下と不同沈下、時間依存

沈下は、基礎が鉛直方向に下がる変形を意味します。沈下自体は必ずしも悪ではなく、問題は量と分布です。

総沈下と不同沈下

総沈下は、建物全体が一様に沈む成分です。不同沈下は、場所ごとの差で、建物に傾きやひび割れを生みます。

構造物のトラブルは、総沈下より不同沈下が原因になりがちです。そのため沈下検討では、沈下量だけでなく沈下差も重視します。

沈下の種類:即時沈下と圧密沈下

砂質土では、載荷直後に生じる即時沈下が中心になります。粘性土では、時間をかけて進む圧密沈下が支配的になりやすいです。

圧密沈下は、完成後にじわじわ進む点が厄介です。竣工時に見えない変形が、数年後に顕在化する場合もあります。

支持力とは何か:限界状態と安全率

支持力は、地盤が「破壊しない」ことを保証する観点です。破壊の代表は、基礎直下のせん断破壊やすべりです。

支持力不足で起きる典型

支持力が不足すると、沈下が急増し制御が効かなくなります。沈下量が小さく見えていた状態から、一気に破局へ移るのが特徴です。

許容支持力は「破壊に対する余裕」

許容支持力は、極限支持力を安全率で割って決めます。安全率は、地盤のばらつきや施工誤差を吸収するために必要です。

ただし、許容支持力を満たしても沈下が許容内とは限りません。ここが、沈下と支持力を同一視できない最大の理由です。

沈下と支持力の違い:比較で一気に理解する

沈下と支持力は、同じ「地盤の性能」でも評価軸が異なります。比較ポイントを固定すると、判断が迷子になりません。

違い1:対象は「使用性」か「終局」か

沈下は、建物が普通に使える状態を守る指標です。支持力は、破壊という終局状態を避ける指標になります。

違い2:支配する地盤特性が違う

沈下は、剛性や圧縮性など変形特性の影響が強いです。支持力は、強度定数や有効応力状態など強度特性が支配します。

違い3:時間の効き方が違う

沈下は、時間とともに進む成分を持つ場合があります。支持力は、短期的に破壊へ至る現象として扱う場面が多いです。

違い4:評価に使う試験・指標が違う

支持力は、強度推定式や支持力式、載荷試験で評価します。沈下は、圧密試験や弾性理論、荷重沈下曲線から評価します。

違い5:対策の方向性が違う

支持力不足には、強度を上げる改良や基礎形式の変更が効きます。沈下対策は、剛性を上げる、沈下差を抑える工夫が主戦場です。

設計での結論の出し方:両方を照査して小さい側を採用

実務の判断はシンプルで、手順を守れば結論がぶれません。ポイントは、支持力と沈下を並列で評価することです。

手順1:荷重条件と基礎形式を整理する

建物荷重、柱位置、基礎底面寸法、根入れを整理します。偏心や水平力がある場合は、地盤反力の偏りも意識します。

手順2:支持力照査で「破壊しない」ことを確認する

設計接地圧が許容支持力以下かを確認します。滑動や転倒が絡む場合は、別途の安定照査も必要です。

手順3:沈下照査で「使える変形」に収める

総沈下と不同沈下が許容範囲かを確認します。粘性土が厚い場合は、圧密沈下の時間特性も評価対象です。

手順4:最終的な地盤の許容条件を決める

設計上は、支持力で決まる許容値と沈下で決まる許容値を比べます。より小さい許容値が、その敷地の設計を支配します。

具体例:支持力OKでも沈下NGが起きる理由

机上の理解より、例で掴むと判断が速くなります。典型パターンを2つ押さえると、混乱が減ります。

例1:支持力は足りるが、圧密沈下が大きい粘性土地盤

粘性土は強度が確保できる場合でも、圧縮性が大きい場合があります。その結果、許容支持力以下でも沈下が進み、不同沈下が問題になります。

この場合の対策は、支持力ではなく沈下の抑制が目的です。地盤改良の仕様も、強度より剛性や沈下量の管理に寄せます。

例2:沈下は小さそうだが、局所せん断で破壊に近い砂地盤

締まりが悪い砂では、載荷によりせん断破壊へ近づきやすいです。沈下量が小さく見えても、限界に近い応力度は危険です。

この場合は、支持力側の制約が支配する可能性が高いです。基礎幅の拡大や根入れ、地盤締固めなどが効きます。

調査報告書で見る指標:どの数値が沈下で、どの数値が支持力か

報告書の数値は多く、意味の取り違えが起きやすいです。代表的な指標と、使い道を整理します。

許容支持力度、長期許容応力度

支持力の照査に使う値として提示されることが多いです。住宅ではSWS試験をベースに算定されるケースも見られます。

荷重沈下曲線(載荷試験)

載荷試験は、荷重と沈下の関係を直接得られるのが強みです。支持力検討にも沈下検討にも使えるため、位置付けが重要です。

圧密特性、圧密係数、沈下量計算

粘性土が厚い場合は、沈下量の主役になります。地盤改良を検討する前に、沈下の支配層を特定するのが先です。

対策の考え方:支持力対策と沈下対策を分けて選ぶ

対策工は「地盤を強くする」だけではありません。目的を分けると、工法選定が合理的になります。

支持力対策の代表

  1. 直接基礎の底面積を増やし、接地圧を下げる
  2. 根入れを増やし、支持力の増加を狙う
  3. 固化系の地盤改良で、強度を上げる
  4. 杭基礎で、支持層へ荷重を伝える

沈下対策の代表

  1. 不同沈下が出る範囲を把握し、基礎剛性で平均化する
  2. 圧密沈下が支配する層を狙い、改良深度を決める
  3. 圧密促進や置換で、沈下を前倒しする
  4. 杭で沈下の影響層を跨ぎ、変形を切る

支持力と沈下で目的が違うため、同じ改良でも設計の見方が変わります。施工後の確認試験も、目的に応じて設定する必要があります。

よくある質問

Q1:地耐力が十分なら沈下は気にしなくてよいですか

地耐力という言葉が支持力だけを指す場合、沈下は別途検討が必要です。許容支持力以下でも沈下が許容を超える場面は珍しくありません。

Q2:沈下が小さければ支持力も十分と言えますか

沈下が小さいだけで支持力が十分とは断定できません。局所破壊に近い状態でも、初期沈下が小さい場合があります。

Q3:住宅でも沈下検討は必要ですか

地盤条件によって必要性は変わります。粘性土が厚い、盛土が新しい、擁壁近傍などは要注意です。

まとめ

以上。本記事では「支持力」と「沈下」の違いについて解説しました。

本記事の要点は以下のとおりです。

  • 沈下は変形の問題、支持力は破壊の問題として整理する
  • 設計は支持力照査と沈下照査を並列で行う
  • 厳しい側の許容値が設計を支配し、結論が決まる
  • 粘性土では圧密沈下、砂質土では支持力が支配しやすい
  • 対策は「支持力対策」と「沈下対策」に分けて選ぶ

沈下と支持力を分けて考えるだけで、地盤検討の筋道が通ります。判断に迷う場合は、沈下支配か支持力支配かを先に見立ててください。

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