結論から言うと、キャスポルとは衝撃加速度法を利用した簡易支持力測定器です。
ランマーを地盤に落下させたときの衝撃加速度から、地盤の強度特性を推定します。
平板載荷試験や標準貫入試験ほど大掛かりではない一方で、
宅地造成の擁壁やボックスカルバートなど、小規模構造物の施工管理に有効です。
筆者は建設コンサルタントとして長年、地質調査や解析に携わってきました。
現場でキャスポルを使いながら、設計値との整合や行政との協議も経験しています。
本記事では、キャスポルの原理と使い方、適用範囲と限界、
平板載荷試験や標準貫入試験との使い分けを、宅地造成の視点で整理します。
記事を最後まで読めば、「どの現場でキャスポルを使い、どこから平板載荷や標準貫入試験が必要か」が、
自信を持って判断できるようになるはずです。
結論として、キャスポルは地盤の全てを評価する試験ではありません。
しかし、必要地耐力が比較的小さい宅地造成では、コストと合理性を両立できる有効なツールといえます。
キャスポルの基本:何を測り、何が分かるのか

まず、キャスポルの立ち位置を明確にします。
キャスポルは「小型・簡便・反力不要」な地盤支持力の簡易確認ツールです。
キャスポルで測定できる主な指標
キャスポル試験では、ランマーを落下させたときの衝撃加速度(Ia値(インパクト値))から、
次のような地盤特性値を換算して表示できます。
- CBR値(路床・路盤の強度指標)
- K30値(地盤反力係数)
- 粘着力 c
- 内部摩擦角 φ
- コーン指数 qc
実務上重要なのは、許容支持力度 qa をどの程度の精度で把握できるかという点です。
宅地造成や擁壁設計では、最終的には必要地耐力との比較が目的になるからです。
キャスポルの位置づけ
キャスポルは、平板載荷試験や標準貫入試験の完全な代替ではありません。
あくまで、比較的小さな確認支持力を対象とした簡易確認試験という位置づけです。
しかし、小規模擁壁や軽量構造物では、
「ボーリング+平板載荷試験」を全面的に実施すると費用負担が大きくなります。
そのような場面で、キャスポルによる施工管理やスポット確認がコスト面で有利になります。
キャスポル試験の原理:衝撃加速度法をかみ砕いて解説

キャスポルの原理を一言でまとめると、
「ランマーの衝撃加速度と地盤強度の相関関係を利用する試験」です。
衝撃加速度法のイメージ
おもり(ランマー)を所定の高さから自由落下させると、
地盤が硬いほど反発が大きくなり、衝撃加速度が大きく測定されます。
逆に、軟らかい地盤ではランマーが沈み込み、
衝撃加速度は小さな値として現れます。
この「衝撃加速度」と室内試験や平板載荷試験から得た地盤定数との相関を取り、
Ia値からCBRやK30、c、φなどを換算するのがキャスポルの基本です。
測定機構の概要
キャスポル本体は、三脚とランマー、表示器で構成されています。
- ランマー質量は約4.5kg
- 落下高さは約45cm
- ランマー内部に加速度計を内蔵
- 衝撃加速度の最大値を検出しIa値として表示
このIa値に対して、あらかじめ求めた回帰式を用いることで、
CBR値や地盤反力係数K30などが簡単に算出されます。
許容支持力度 qa とのつながり
最近の機種では、表示器側で許容支持力度 qa まで自動計算できるものもあります。
ただし、基礎形状や安全率などの前提条件を入力する必要があります。
設計側の前提と異なる条件で計算すると齟齬が生じるため、
キャスポルのqaをそのまま設計に使うのではなく、設計値との整合を必ず確認することが重要です。
キャスポル試験の具体的な進め方

次に、現場でキャスポル試験を行うときの基本的な流れを整理します。
1. 必要地耐力・確認支持力の整理
最初に、設計図書や安定計算書から、
「必要地耐力」あるいは「確認支持力」を明確にします。
擁壁やボックスカルバートであれば、
設計者が算出した必要地耐力が計算書に記載されているはずです。
この値が分からないままキャスポルを打っても、
合否判定ができないため、必ず最初に確認してください。
2. 試験位置と測定点数の計画
次に、基礎底面のどこで試験するかを決めます。
- 基礎全長に対して、代表的な位置を複数選定
- 1箇所あたり数点を測定し、平均値で評価
- 軟弱そうな部分は重点的に確認
筆者の経験では、「設計上最も厳しい位置」と「見た目が悪い位置」を意識して選ぶと、
後々のトラブルを防ぎやすくなります。
3. 試験の実施手順(概略)
キャスポルの試験手順は次のイメージです。
- 三脚を設置し、水平を確認する
- ランマーを所定の高さまで持ち上げる
- レバー操作でランマーを自由落下させる
- 衝撃加速度からIa値が表示される
- 同一箇所で複数回(基本は5回)測定し、平均値を取る
測定自体は1箇所あたり数分程度で完了するため、
狭い現場でも効率よくデータを集められます。
4. 合否判定と対策検討
最後に、換算された許容支持力度 qa と、
設計で要求される必要地耐力を比較して合否を判定します。
- 設計値 ≦ キャスポルから求めたqa → 合格
- 設計値 > キャスポルから求めたqa → 地盤改良などを検討
ただし、不合格が出たからといって即座に大規模改良を決めるのではなく、
試験位置・土質・他の調査結果を総合的に確認する姿勢が重要です。
キャスポルの適用範囲と限界を押さえる

便利なキャスポルですが、適用範囲には明確な限界があります。
ここを誤解すると、過信した設計や判断につながります。
土質条件の制約
一般に、キャスポルが精度よく適用できる土質は、次のような条件です。
- 最大粒径が概ね37.5mm以下
- 10mm以上の礫を30%以上含まない土質
- 過度に軟弱な粘土や、有機質土は要注意
礫が多い材料や舗装直下のような条件では、
ランマーの衝撃が局所的に伝わり、ばらつきが大きくなりがちです。
支持力度の上限
また、キャスポルの適用上限となる支持力度も重要です。
一般的な案内では、地盤支持力が約300kN/㎡未満の範囲を対象としています。
コンクリートや岩盤のような非常に高い支持力を持つ材料は、
キャスポルの測定レンジを超えてしまい、評価対象外となります。
「万能な試験ではない」と理解する
キャスポルは、小規模構造物の施工管理に特化した簡易試験です。
ボーリングや平板載荷試験と同列に扱うべきものではありません。
特に、液状化や長期沈下といった地盤の問題は評価できません。
「必要地耐力の確認」という目的に特化して使うことが重要です。
必要地耐力100kN/㎡前後での使い分けの考え方

ここからが宅地造成で特に重要なポイントです。
必要地耐力100kN/㎡前後を境に、求められる試験のレベルが変わるケースが多いためです。
多くの行政での運用イメージ
宅地造成や小規模擁壁に関する技術基準を確認すると、
必要地耐力100kN/㎡未満については、キャスポルなど簡易試験での確認を認める自治体が多くあります。
中には、100kN/㎡未満であれば地耐力確認自体を必須としない自治体もあります。
ただし、自治体ごとに考え方が異なるため、必ず担当部署の基準類を確認することが前提です。
100kN/㎡を超えると求められる試験レベルが上がる
一方で、必要地耐力が100kN/㎡を超えてくると、平板載荷試験や標準貫入試験の結果を求めるケースが増えます。
特に、擁壁全高が4m付近まで高くなると、必要地耐力も120kN/㎡以上になることが多く、
スクリューウエイト貫入試験では評価できない領域に入っていきます。
このゾーンでは、
- ボーリング+標準貫入試験
- 平板載荷試験
など、より信頼性の高い試験結果を組み合わせて評価する必要があります。
実務での判断フローの一例
宅地造成の擁壁を例に、判断フローのイメージを示します。
- 設計計算書から必要地耐力を確認
- 必要地耐力が概ね100kN/㎡未満
- 行政基準でキャスポル試験が認められていれば、キャスポルで確認
- 必要地耐力が100kN/㎡を超える
- スウェーデン式サウンディングやキャスポルだけでは不十分
- 標準貫入試験や平板載荷試験の実施を設計者と協議
このように、「100kN/㎡前後を一つの目安に試験レベルを切り替える」と、
検討の筋道が整理しやすくなります。
平板載荷試験・標準貫入試験との違いと組み合わせ方

次に、キャスポルと代表的な他の地盤試験を比較します。
ここを整理しておくと、行政との協議や発注者への説明がスムーズになります。
平板載荷試験との主な違い
平板載荷試験は、載荷板と反力装置を用いて地盤を段階的に載荷し、
荷重と沈下量の関係から地盤の支持力を評価する試験です。
- 反力装置や油圧ジャッキが必要
- 試験時間が比較的長い(1箇所に数時間かかる)
- 設計で使う許容支持力度の根拠として信頼性が高い
一方、キャスポルは反力装置を必要としません。
狭隘な現場でも簡便に測定でき、施工管理や補足的な確認に適した試験です。
標準貫入試験との関係
標準貫入試験(N値)は、ボーリング孔内でサンプラーを打撃貫入させ、
貫入抵抗から地盤の硬軟を評価する試験です。
- 深さ方向の地盤構成と強度分布が分かる
- 液状化検討などにも利用できる
- ただしコストと工期はそれなりに必要
宅地造成では、造成全体の安全性検討には標準貫入試験を用い、
個々の擁壁や構造物の施工段階でキャスポルを使うという組み合わせが現実的です。
ベストな使い方は「役割分担」
要するに、
- 標準貫入試験:造成全体の地盤条件を把握するための“設計側”試験
- 平板載荷試験:重要構造物の支持力を直接確認する試験
- キャスポル:小規模構造物や施工管理での“簡易確認”試験
という役割分担で考えると、判断がブレにくくなります。
宅地造成・小規模擁壁でのキャスポル活用のコツ

最後に、宅地造成を前提としたキャスポルの実務的な活用ポイントをまとめます。
1. 設計者・行政との事前すり合わせを必ず行う
キャスポル試験を採用するかどうかは、設計者と行政の理解が前提です。
- 設計計算で想定している必要地耐力
- 使用する試験方法と安全率の考え方
- 許容される確認方法(キャスポル可否)
これらを事前にすり合わせておくと、
完了検査の段階で「試験方法が違う」といったトラブルを避けられます。
2. 土質情報と組み合わせて解釈する
キャスポルの試験結果だけに頼るのではなく、
- ボーリング柱状図
- スウェーデン式サウンディング結果
- 盛土材の仕様や施工管理記録
と組み合わせて判断することが重要です。
筆者の感覚としても、土質や施工条件を頭に入れたうえでキャスポルの数字を見ると、判断の精度が一段上がると感じます。
3. 不合格時の対応パターンをあらかじめ用意しておく
キャスポルで必要地耐力を満足しない場合に備え、
- 砕石置換による支持力向上
- セメント系固化材による地盤改良
- 擁壁形式や基礎幅の見直し
など、いくつかの対策パターンを事前に検討しておくと安心です。
不合格結果が出てから慌てて対策を考えるよりも、
「このレンジなら改良、ここから先は計画の見直し」という基準を共有しておくと、現場がスムーズに進みます。
まとめ:キャスポルを正しく理解して“使いどころ”を見極める
最後に、本記事の要点を箇条書きで整理します。
- キャスポルは衝撃加速度法を用いた簡易支持力測定器で、小規模構造物の施工管理に特化した試験です。
- ランマーの衝撃加速度から、CBR・K30・c・φ・qcを換算できます。
- 適用土質は、最大粒径約37.5mm以下で、粗い礫を多量に含まない材料が目安です。
- 適用上限の支持力度は概ね300kN/㎡未満であり、岩盤や高支持力地盤の評価には向きません。
- 必要地耐力100kN/㎡未満では、キャスポルなど簡易試験での確認を認める行政が多く見られます。
- 一方、必要地耐力が100kN/㎡を超え、擁壁高が4m付近になると、標準貫入試験や平板載荷試験が求められるケースが増えます。
- 標準貫入試験や平板載荷試験と役割分担を行い、「設計側の試験」と「施工管理側の試験」を意識して使い分けることが重要です。
- 宅地造成では、設計者・行政と協議しながら、キャスポルを活用することで、安全性とコストのバランスをとった地耐力確認が可能になります。
キャスポルの特徴と限界を正しく理解し、
「小規模擁壁や宅地造成でどこまで任せられるか」を整理しておくことが、現場トラブルを減らす一番の近道です。
本記事が、キャスポルの使い方に悩む技術者の方の一助になれば幸いです。


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